Kindred by Octavia E. Butler

最近はアメリカ南部に興味があるので、前回に引き続き、南部を垣間見れる本を読んでみました。

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sosolife8.hatenablog.com

 

作家の Octavia E. Butler (オクティヴィア・E・バトラー) は、サイエンスフィクションの作家として知られているけれど、この作品はサイエンスフィクションとは違った話。タイムトラベルの要素はあるけれど、それがメインのテーマでもないし。

よく知られている作家であること、ここ 2, 3 年で何回か耳にした作家であること、南部の話、そして作家が黒人女性である、ということでこの本を選んでみました。以前に彼女の別の作品 (Parable of the Sower) を少しだけ読んだことがあって、そこでは舞台がうちの近くのパサデナ周辺だった、というところに親近感を覚えたのもあるかもしれません。

この作品でも主人公は LA 周辺に住んでいます。と言ってもそれはあまり内容には関係ないけれど。それでこの主人公が自分の意思とは関係なく、過去の奴隷制度の時代にタイムトリップしてしまう、というのが話の大筋。

作品中は、奴隷制度の日常がたくさん描写される、というか、むしろ奴隷制度の日常を描くのにタイムトラベルの要素を取り入れた、と言った方が近いかもしれません。

その描写が本当に心が痛む内容です。気分も悪くなるし、読み続けるのも辛いくらいでした。これが普通の時代で、それもそんなに遠くない過去だ、ということを考えると本当にこの事実をどう消化すればいいのかわからなくなります。実際こうしてこれだけ書くのも、読み終わってからだいぶ時間が経っています。それでもまだここに具体的に書くことが憚られます。具体的な内容がないのでピンと来ない方も多いと思いますが、そこは是非作品を読んでみて欲しいです。以下考えさせられたこと3点。

 

アメリカについて:

どう考えても、この奴隷制度で築き上げた富の上に今のアメリカがある。ということは紛れも無い事実。そしてその結果として今の生活が成り立っている、自分の生活も含めて。そういう意味では、奴隷制度や人種差別は過去のこと、と言い切ってしまうのは違う気がします。

白人について:

自分の先祖が同じ人間を家畜のように扱っていて、その結果として自分の生活が成り立っている、もしくはそうした富の上に自分の生活があると理解して生きる、ってどんな人生なんだろうと思います。おそらく本人たちは自覚してないだろうけれど、深層心理的なとても深いところで、トラウマやストレス、恐怖があるんだろうなと思います。そのせいでたくさんの現実逃避としか思えないような考えをしている白人が多いのかなと思います。学校においても奴隷や人種差別についての教育にものすごく口出ししてくるののもその辺りが関係しているのかなと。例えば黒人の生活に関する本の検閲とか禁止とか。とにかく歴史を教えたくないというイメージがあります。アメリカ風に言えば教育されない権利、的な?それではどうしようもないと思うんですけれどね。目を背けたくなるのもわかりますが、それはつまり目を背けたくなるようなことを自分たちの先祖が過去にしてきた、ということでもあるわけで。その過去をきちんと見つめて、受け入れて、そこから何を学ぶか、間違いをどう正していくか、という過程を経ないと自分たちの中にある、恐らく無意識のストレスやトラウマはいつまでたっても世代を超えて残っていくと思うんですけどね。もちろん白人全員が奴隷所有者の子孫ということではないです。奴隷制度が終わってから移民してきた人々も沢山いるでしょう。そういう人たちは関係ないかというとそうとも言えない気がします。世の中はそんなに単純ではなくて、でもその話はそれ自体がひとつの大きなテーマなので、また別の機会に考えてみたいと思います。

黒人について:

ほんの数世代前までこのような扱いを受けていた黒人の人々が、そこから人としての尊厳を取り戻し、差別が未だ強く残る中生きていくというのは本当に本当に大変な道のりだと思います。終わりが見えない何世代にもわたる長い闘いなんだろうなと思います。

ふと思い出したことに、以前心理カウンセラーの方から聞いた話があります。奴隷制度が終わった時、親は奴隷制度の元なんの権利もなく生まれ育って、でも子は生まれた時から権利が (法律上は) 保障されている、ということになって、その時の親の心は本当に複雑だった、というような話でした。自分がしたくでもできなかったことを子供達はできる、なりたくてもなれなかったものに子供達はなれる、少なくともしようと、なろうと挑戦することが子供達には許されている。それを日々目にしながら生きるというのは辛いと思います。子供達の幸せを願う一方、自分の人生はなんだったのだろうとか考えてしまいますよね。そしてそこから親子関係がうまくいかなくなってしまうこともあるし、そう言ったトラウマは世代を超えて続いていく、という話でした。

この作品を読んでから、このカウンセラーの話がすごく心に響きます。多分このカウンセラーの話は黒人の人たちが抱える様々なトラウマの中の一つに過ぎないのでしょうけれど、ただでさえ黒人であるというだけで生きづらいのに、その上こういったトラウマや他の様々な複雑な心理を抱えて生きていくなんて、想像がつきません。もちろん黒人全員がそうだというわけではないでしょうが、こういう側面もあるのだと理解するのは大切なことな気がします。

アメリカは一言で言ってしまえば先住民を殺して手に入れた土地で黒人奴隷を使って築き上げた富の上にある国、ではあるのですが、呪われてるなと思います。その呪いからまだまだ自由になれてないな、呪いから力技で目を背けている状態だなと思います。私の拙い日本語ではなかなかうまく言い表せないのですが、呪いの一端を垣間見るという意味でも、是非この本は読んでみて欲しいです。