All the Sinners Bleed by S. A. Cosby

アメリカに住んでいるといろんな形で人種差別問題が浮き彫りになってくる。アジア人である自分も例外ではない。

日本にいた頃、人種差別、という言葉は概念として知っていても、一体それがどういう形で日常に現れているのか、黒人として、アジア人としてアメリカに存在するということは具体的にどういうことなのか、というところまで考え、想像力は全く至っていなかった。

アメリカに住んでいても、自分の限られた世界の中で生きているだけでは、やはり限られた理解しか得られない。まあアメリカはそういう自分の世界でだけ生きていける、いわゆる privileged な人が世の中を回しているので、人種差別は無くならないわけだけど。

そんなアメリカを震撼させたのが、数年前の Black Lives Matter 運動だろう。私は、あの年は今までにないくらい人種差別について考えたし勉強したと思う。これは黒人の問題というかむしろ白人の問題である、と私は思っている。このことについて考える事ところはいろいろあるがそれはまたいずれ。

勉強したとはいえ、所詮 LA 地域に住んでいるアジア人の私が理解できることなんて程度が知れている。西海岸の LA 全体を見ても、やっぱりどこか表面的というか、概念の範疇を超えていない気がして、私はずっと南部 (the South) を理解しなければ、人種差別、特に黒人差別についてはきちんと知ることはできないだろうなと漠然と思っていた。

そんなもやもやした気持ちをうっすら抱えながら日々過ごしていたわけだが、ある日運転中にいつもかけている NPR (National Public Radio) の Fresh AIr という番組でこの本の作者へのインタビューをやっていた。運転中なのできちんと聞けなかったが、黒人の話、南部の話をているのはなんとなくわかった。その日の夜、また運転している時に、NPR から同じ番組の再放送が流れてきた。やっぱり全ては聞けなかったけれど、もう少し聞くことができた。

南部に興味を持っていた私が1日に2回もこの本について耳にするなんて、これは運命かも。というわけで読んでみた。

内容は、一言で言って仕舞えば、南部を舞台にした探偵小説。主人公は元 FBI で、南部の地元の町に戻り初の黒人保安官として働いている。そこで事件が起きて保安官が解決に向かって奔走する話。

ただ、そこで描写される南部の生活がすごくリアリティがあって、勉強になった。なんとなくうっすら持っていた南部の知識、イメージがクリアに見えてきたというか。差別が根強く残ると一言で言ってしまうのは簡単だけれど、それが人々の生活の中にどう表れるのか、コンテキストが見えてきた気がする。例えば、Civil War で奴隷制を支持していた将軍が未だ英雄視されていて、銅像が街の中心部に立っているとか、白人至上主義者がその銅像を守る為に運動をしているとか、黒人と白人で未だに使う葬儀社が別だとか、奴隷制によって富を築いた家が、未だに町で一番裕福な家で、権力もあり、そして町一番の雇用主だとか (工場を幾つか所有しているため)、 新しい世代の新しい人種差別対抗運動をしているグループがいるとか、結局黒人も白人も同じバーで飲んでるとか、だから保安官の主な仕事はそのバーで起こる喧嘩の仲裁だとか。

フィクションだけれど、私が高校、大学のアメリカの歴史の先生なら学生に課題としてぜひ読ませたいなと思う話。探偵小説で読みやすいし、ハラハラドキドキのエンターテイメント性もあるし、手軽に読めて、南部のことについて知る第一歩にもなり、英語の練習にもなる、良い作品だと思う。